あなたの徒然なるままに。

フィクション少々

アイデアが映えるように

あの人のことばかり考えている。

朝起きて携帯を見る。ない痕跡をひと通り探してると会社に遅れそうで慌てて準備。

まだつめたさの残る空気を纏い、髪は半乾きのままギリギリ間に合う。無事に始業ミーティングを終えたら一息つく。このときになんとなく携帯をまた見る。

会議にでる。上の空であの人のことを考えながら、タイムマシンの原理を見た気がしている。プリントはスクリーンに投影されると、その色合いは明らかに存在する時期が違うことを示している。観察する我々の立ち位置に過ぎないのだ。いつ何を観察しても、対象の過去と未来の出来事を少なからず想起できるだろう。スクリーンに目を向けるか、机の上に目を向けるか、たったそれだけなのかもしれない。人の記憶などなんの根拠にもならず、過去は変化し続ける。許容できない改ざんには歴史の強制力なるものが働く。未来はそもそも固定される訳がない。

この考え方がタイムマシンに反する理由が見当たらなくなった。できるなら今すぐあの人に話したい。君はまたおかしなことを言うねって笑うのだろうか。仕事さぼるとだめだよと窘めるのだろうか。

午後からは記憶と目的が曖昧になる。仕事をする、しんどい。お腹がすく、菓子パンを食べる。眠い、コーヒーを飲む。会いたい。先輩と議論をする、喉がかわく。これらを無作為な頻度で体現するだけ。

先週からあの人と連絡をとっていない。少なくともあと10日間は連絡しない。決めたこと。プリントにはなにも書き込まない。あの人がペンを取ってくれることを期待し、他意などなく無意に英語のタイトルをつけてみる。

「wishful observation」